出題分野の割合
地理:3割5分 歴史:4割 公民:2割強(例年とほぼ変わりなし)
教科の特性上、その年あったことに題材が引っ張られるため毎年変化があるようにけれども、実のところ根底にあるもの、本質の部分はここ数年変化がない
<ここ数年傾向が変わらないものとは>
非常に難しい、細かい語句を問う、それがないと解けないという問題は減少している
代わりに、受験生がそれまでどういう学習をしてきたのかということを、様々な問いを工夫することで厳しく問うという、ごまかしの効かない感じになってきている
必要なもの
知識の活用力
地理については統計に関する問題は典型だが、単純な統計知識だけでなく、都道府県や地域の様子がきちんとわかっているか、社会の変化が理解出来ているかが問われる
知識を2つ3つ併せて考えることが大事
例:鉄道開通150周年ということで交通に関する出題が多かったが、東京からの直線距離と、鉄道での所要時間を組み合わせた表を使った問題が複数あった(吉祥女子など)
知っていれば解けると思いがちだが、受験生が見たことのないような統計を選んで出してくる、加工してくるという傾向がここ数年強まっているので、全部覚えようとするのはコスパが悪すぎる
きちんと使える知識を身に着けてきたか、その場で知っていることを使ってなんとかすることができるか、読み取ったものと知っていることをつなげて考えられるか、このあたりで差がつくようになってきている
読解力
資料からわかることを読み取ってまとめていかなければならない
近年、つける資料が丁寧につくられていることが多くなっていて、読解力も試すという風になっている大学入試改革の影響もあるだろうし、情報を読み取る力が弱くなっているということに対する先生方の危機感が如実に表れている
渋谷渋谷中:邪馬台国論争について、畿内説と九州説の根拠を考えさせる問題
非常に丁寧な誘導がついており、大人にしてみればなんてことはない問題であったが、子供からすると情報が膨大過ぎて逆にノイズとなり、正答を導き出すのに苦戦するという状況であった
たくさんある資料や情報から必要なものを読み取っていく、それをもとに考える
これが今の子供は結構苦手である
世の中が便利になり、整理された情報が簡単に手に入る世の中になったからこそ、たくさんある情報の中から必要なものを抽出する力は、受験生をふるいにかけるにはかなり有効に働くでしょうし、今後もこういった問題には注意が必要
当事者意識・多面的視点
選挙権年齢、成人とされる年齢の引き下げなどをきっかけに、社会で起こっていることを自分のこととして考えてほしい、未来志向で考えてほしいという出題は増加傾向にある
例:みんなの公園をつくって社会問題を解決しようというタイトルで自分の考えを述べさせる問題(恵泉女学園)
世の中で起こっていることは自分に無関係ではない、小学生の自分には関係ないではすまない、ということを考えさせる
将来、社会を担っていく一員としての自覚を促すという先生の意図がうかがえる
単純な二項対立では済まない、様々な立場が存在することに注目させる出題も目立った
例:「賛成派」「反対派」ではなく「賛成派」「慎重派」と表現することがあるが、なぜか(聖光学院中)
ゲーム理論に関する出題(早大学院中・駒場東邦中など)
ロシアとウクライナの話をもとに、民族とはどういう風に形成するのかの問題(成蹊中)
今年度目立ったトピック
ロシアのウクライナ侵攻
扱っていない学校の方が少なかった
戦況が日々かわるため、出題としては国の位置やNATO関連、クリミア併合に関してなど、受験生にとっては予測の範疇であったと思う
ただ、これに関連して国際社会や国際連合について問う、日本への影響などについて問うなどの問題が多くみられた
→注目すべきは国際連合
国際連合の成り立ち、今後の課題などを考えさせる問題が目立っている
例:拒否権に関して否定的な意見がある中で、拒否権があることの利点はなんだったのか、(鴎友中)
物価高をはじめとした日本への影響
世界で起きている出来事は自分たちにとって無関係ではないんだと思う良いきっかけになると先生たちは思っている
今回の物価高に関しては紛争だけでなく円安も影響しているので、そちらも絡めた出題が多かった
そもそも円安が進んだ背景には何があるのか、日米の中央銀行の政策について考えさせるなど
出題の仕方は多岐にわたっていた
災害
直前の出来事からではなく、数年前のものからも時事要素を絡めた問題として出題されるのはもはや定番化している
歴史上の災害についても普通に出てくるのも昨今のトレンドである
紙のハザードマップとスマホのハザードマップを比べた時の紙の利点(海城中)
ハザードマップのユニバーサルデザイン化にはどんなものがあるか(大妻中)
首都圏の貯水池の使い方など(東洋英和女学院中)
災害対策にも一定の出題がある
2023年は関東大震災からちょうど100年なので注意が必要なテーマである
→これに関連して線状降水帯など、理科にまたがるような問題も出てきている
選挙
昨年は参議院の通常選挙があったため、その結果や選挙制度そのものについての出題が見られたのはもちろんのこと、シルバー民主主義、ポピュリズム、そういったものは定番化しつつある
今年度は、代表を選ぶということに関して、その仕組みにはどんなものがあるのか、これを考えさせる問題が目を引いた
女子学院中:様々な選挙制度の中から、世襲議員であることが一番影響を与えにくい仕組み、二大政党制になりやすい仕組み、こういったものを選ばせる問題
頌栄女子学院中:くじ引き民主主義について、長所と短所を考えさせる問題
明大明治中:クォーター制について自分の賛否を示した上で、反対論はどんなものがあるか、両方考えさせる問題
市川中では、そもそも民主主義とは何かというところまで踏み込んでいたりして、6年後には主権者として一票を投じるという子供たちに自覚を促すという先生方の意識が感じられる
現代社会の様々な問題や公共
ジェンダー、格差、多様性といったものに関する問題はすっかり定着したが、年々深みと幅を増している
例)
学習院女子中:子供の貧困を解決することは、社会全体にとって重要であるが、それはなぜかを考えさせる
開智中:公平と平等は違うが、どう違うのかを考えさせる
普連土学園中:マイクロアグレッションと呼ばれる意識下の偏見や差別の具体例を挙げる
今年度目を引いたのは「公共」に関する出題
おそらく、新しい科目として「公共」が導入されたことが背景にあると考えられる
筑波大付属駒場中:大問1つまるごと使用した公共図書館についての問題、社会的役割や運営について幅広く論じるというもの
国学院中:公共財というものがどういう性質をもっているのかという問い
麻布中では社会の入試そのものが公共をテーマにしており、最後の問題は個人の問題と考えられていることでも、みんなの力で解決できることがあるはずであるが、その具体例を考えさせる問題であった
→社会と個人の関係を問い直す、いかにも麻布中らしい問題だったと思う
身近なものを切り口にした出題
こちらは正直なんでも出る
子供が必ず口にしているはずのもの、買い物に行けば必ず見るはずのものとして、
例)
慶応中等部:醤油の一般的な製法、「東京」の地名がついた郷土料理について
法政第二中:豆乳をあたためた時に出来る膜、「ゆば」を答えさせる問題
→先日、小学5年生に聞いてみたところ、ゆばの正答率は2割くらいだった
答えられた子は、「自分で作ってみたことがある」というツワモノが一人いた他は、お父さんのおつまみに出てきたとか、なんかわからないがお味噌汁に入っていたとか、そういう反応だった、よく見ているなと感心した
お店に関しては
早稲田中:最近スーパーでよく見る「手前どり」の目的は何なのか
明大明治中:ステルス値上げについて
このあたりは日々の生活の中でのちょっとした引っかかりを大事にしているかが試される問題である
18歳で成人とするようになったことが関係しているのだと思うが、マルチ商法やクーリングオフなど、消費者法に関係するものが例年より多かったのが印象的であった
普段使っている言葉に関しても敏感になってほしい
渋谷幕張中:おじいさんは山へ柴刈りに…の「柴」とは何なのか
→子供に聞くと、庭の「芝」だと思っている子が結構いる
「あれ、なんだろう」と思うことが大事である
大人にとっては当たり前のことでも、子供は知らないという知識が意外に出る
渋谷幕張中:お葬式やお通夜に出席した後、死の汚れを持ち込まないためにやることは何か
慶応普通部:「半旗」はどういう場合に行われるのか
普段の生活の中で、家族であれやこれやの会話があるかどうかも見られているように思う
この先の対策
大前提に必要なのは、地道に努力を重ねて確固たる知識を身に着けること
いまの中学入試は「知っていること」がゴールではなくスタートに過ぎず、それに達しない子は門前払いとなる
面白い問題を味わい、自分の培って来たものをぶつけるにはまず土俵に乗らないといけない
この「知っていること」は実はなかなか難しい、易しい用語ほど正しく理解するのが難しい
地道に土台を固め、その上で学んだことと社会のつながりを考えられるかどうか、様々な角度からものを見ることが出来るかどうか、読み取った情報や聞いたことをもとに、自分の意見を組み立てて伝えられるかどうか、このあたりが試される
上記のことを養うために一番いいのは「人と話をすること」
ただ、これで一番大変なのは保護者、まず会話といったら家庭になるが、大人と子供は全く別種の生き物なので話がかみ合わない
大人側は少し我慢をして歩み寄ってあげることが本当に大事
こどもは突飛なことを言うものだが、そうした時に「それは違う「それは不正解」と言うのではなく、「なんでそう考えたの?」と聞いてあげると子供が考えを深めることが出来る
子供はどうでもいいことに疑問をもつが、そこを否定すると疑問を持つことをやめ、自分の頭で考えなくなってしまう
ある程度我慢して、子供に付き合ってあげてほしい
サピックスの授業を上手く使う
子供の発想力は本当に無限なので、いろんな発想を持つお友達の意見を吸収して、自分の力に変えていく
子供を子供として見ると同時に大人扱いする
社会科の入試はなんでも出題されるし、分析会でもお話しにくいようなかなり際どいテーマにも平気で踏み込んでくる
子供だからこんなもんでいいだろうと情報を制限せずに、あれこれ大人扱いして話してあげるのも大事だと思う
最近の子供でとても心配なのは「子供は攻略法が大好き」という点
「うまくやれる方法ないですか」「効率いい方法ないですか」と聞いてくるが、そんなものはない、なぜなら社会科は社会のことを学ぶ教科だから
世の中のことを学ぶ以上、日々の生活すべてが勉強である
地道に学んできた子供は、入試で結果を出すのはもちろんのこと、人生を自分で切り開いていく力がついているはず
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